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●2024年
街ゆけば様々な人とすれ違う。どこの誰だかわからないが、一人うつむくあの子は学校で悲しいことがあったのかも知れない。バス停に杖つくあの人はこれから病院へ。人知れず辛い病気と闘っているかも知れない……生涯、順風満帆な人は少ないだろう。おおかたは、人生のどこかでつまずき転んだ経験があるはず。おのおのが振り返れば、誰かの歌詞に、言葉や詩などに勇気づけられ救われてきただろう。後からじわりと胸に響くことがあったりする。
昨年8月、95歳で母が亡くなった。直後の9月、食道と大腸に癌が見つかる。信仰心のあつい母が生きていたらどんな言葉を投げかけただろうか。前日まで元気だった母が逝き、年の暮れ、意識を失い救急車に運ばれた僕は生かされた。主治医をはじめ看護師、叔母、姉、友人らに支えられてきたのだ。100歳まで生きると言っていた母は自らの寿命を削り僕に授けたと思えてならない。だとしたら、これからの5年は自分ひとりの命ではない。
読売新聞1面のコラム「編集手帳」を担当していた竹内政明氏は勝った人より「負けた人」に、幸せな人より「日の当たらない人」に寄り添い数多くの名文を残した。詩人吉野弘(1926―2014)の詩は平易な言葉で心の奥を突く。人間の内面に迫った句を詠み、人間探求派と称された俳人中村草田男ら ……現代俳句では高野ムツオ氏。同氏の言葉に「切れば血が噴き出る俳句を目指す」とある。このホームページを続けるうえで大きな影響を受けた人物である。
当初、近況報告のつもりで立ち上げたホームページはうつむく人、倒れ座りこむ人を意識するようになっていく。躊躇する一歩目の支えになれれば、と。退院後、改めて言葉の力を感じている。「あんたがおるさけ行くんや」。何年か前に石川県で放送されたコマーシャルのセリフが味わい深い。能登半島を襲った地震「あんたがおるさけ助かったんや」「困っている人がおるさけ行くんや」。誰をも救い、誰もが救われる生きた言葉を未来に継ぐ。
―― 追記――
飲み食いできなかった入院中はグルメ番組ばかり。2月の手術後は大きな問題もなく、口から通常の半分ぐらいは食べれるようになりました。今は桜の花が待ち遠しい毎日です。一歩づつの回復ですが、今秋にはグルメ旅で復活ができればと ……先ずは俳句からのアップを考えております。
(令和 6年3月記す)
令和 6年 5月26日(日)
野麦峠〜奈良井宿 同行者 ヘンコ 福光IC〜野麦峠〜奈良井宿〜高山IC
7割の人が望む「FIRE」 “資産3000万円で節約しながらのリタイア生活”は幸せ? 先週のネット記事の見出しにあった。FIRE(ファイア)とは、Financial Independence Retire Earlyの頭文字をとった言葉で「経済的自立」と「早期リタイア」を意味する。
ずいぶん前、「宝くじ一等が当たったらすぐ会社を辞める」そんな話で盛り上がった記憶がある。確かに早期リタイアして不労所得で暮らすライフスタイルに魅力を感じる人は多い。ただ、FIREを達成してもやりがいや生きがいを見いだせず再び会社員に戻る人もいる。
米ハーバード大学は、心身の健康や幸福のカギを探すための調査を85年以上にわたり続けている。研究成果のまとめによると、幸せな人生を送れるかどうかは人間関係の良しあしが影響しているという。人間の幸福度は年収、学歴、職業だけで決まらないのだ。
健康や幸せは何気ない日々の当たり前の延長にあるものかもしれない。部屋にこもってばかりでは病気にもなろう。巷では夏服の人が増えてきた。衣替えの季節、とびきり高価な上着がなくても外に出れば心地よく感じるはず。ほら、確かな温もりの風が吹いている。
令和 6年 8月 6日(火)
山中温泉ゆげ街道 古代ローマ人はおおいぬ座の一等星シリウス(通称、犬の星)が太陽とともに昇る季節、夏の暑さが最も厳しい時期を「犬の日々」と呼んだ。諸説あるが、北半球においては7月上旬から8月中旬ごろまでを指し、欧米では今日でもこの期間を「ドッグ・デイズ」と呼んでいる。
俳句の世界では「風死す」「油照」「炎昼」など…口にするだけで汗が出てきそうな季語が並ぶ。以前、「墓参り」は秋を表すと知って驚いた。猛暑にうんざりしているが、明日7日は立秋。暦のうえでは秋の始まり、暑さの頂点であっても夜風に涼の気配を感じるころだという。
見えない風は時としてもどかしい。能登の被災者が望む復興である。「できるだけ早く輪島に戻りたいです」「今も自宅はぺしゃんこのままで何も変わっていません」「たくさんの人に助けてもらっていると感じる半年でした」…。余震と寒さに震えた日々から約半年が経過した。
いまも倒壊した建物の多くが残されたまま。どんなに歳月が流れようと被災地の痛み、悲しみは薄らぐことはあっても消えることはない。夏のシリウスを探すかのよう、かつての故郷を思い出す。けれど、被災者は気づいている。未来の自分を助けるのは涙ではなく汗である、と。
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